『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』(ジェイ・ハインリックス)
通勤時間中に以下の本をちまちま読んで、読了したので感想をまとめておきますー。
だいたい2週間くらいはかかっていたっぽい。(遅い......)
この本でレトリックというのは、メタファーなどのことというよりは、弁論術。
弁論術とは、説得する技術を教えるもの。
著者が弁論術と言うとき、アリストテレスとかが言う弁論術を念頭に置いている。
ただ、注意しなければならないのは、弁論術が教えるのは、議論に勝つ方法についてではない。繰り返しになるけど、弁論術は説得の技術であり、説得とは相手を思い通りに動かす技術。
議論 は、 うまく やれ ば 聞き手 を 語り手 の 思う とおり に 動き たい 気持ち にさ せる もの。 それ に対して 口論 は、 相手 に 勝つ ため に する もの だ。 合意 を 得る ため に する のは 議論 で ある。
ジェイ・ハインリックス. THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術 (Kindle の位置No.495-496). 株式会社ポプラ社. Kindle 版.
まあ口論で勝っても、相手が思い通りに動くとは限らないよねっていう話。
口喧嘩に負ける代わりに、相手に歯磨き粉を持ってきてもらえるとすれば、
相手を思い通りに動かすという意味では、成功と言ってもいいだろう。
(というようなエピソードが最初の方に出てくる)
相手を思い通りに動かす技術というのをいろいろと本書は紹介してくれる。
とはいえ、きっちり学問的な裏付けをしてくれるタイプの著者じゃないので、
苦手な人は苦手かもしれないと思った。
(ハインリックスさんは編集者やコンサルタントの経験が豊富な人で、学者ってわけじゃなさそう)
ハインリックスさんの話が興味深いのは、ロジックだけではなく、話す人の人柄とか共感とかも重要だと言うところ。
アリストテレスにならって、ロゴスに関する技法と、エートスに関する技法と、
パトスに関する技法に、著者はわける。アリストテレス的に正確なところは、
著者も私もよくわからないが、それぞれ論理に関する技法、人柄に関する技法、
感情に関する技法みたいな感じで考えておけば、ここではよいだろう(と信じてます)。
で、とくに重要なのがエートスだという。つまり、人柄ってことだが、
たぶん聴き手から人柄を信頼してもらうということ。
エートスに関して、ハインリックスはいろいろとテクニックを紹介しているのだが、
たとえば価値観を共有しているように見せようというのがその1つ。
もし あなた が、 自分 の「 エートス」 を 説得 力 の ある「 徳」 と 結びつけ たい と 思う なら、 まずは 聴衆 の 価値観 を 知り、 その 価値観 を 共有 し て いる よう に 見せる こと が 必要 で ある ─ ─ そう、 たとえ 聴衆 が、 ひとり の むっつり と し た 10 代 の 子 で あっ ても。
ジェイ・ハインリックス. THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術 (Kindle の位置No.1302-1304). 株式会社ポプラ社. Kindle 版.
「この人は話の通じそうな人だな。この人の話を聴いてもいいな」と思ってもらって、
まずは心をひらいてもらう必要がある。いきなり違う意見をぶつけても、全然話を聞いてもらえないってことだと思う。
リンクしやすいページがなかったので、個別にググってほしいのだが、
営業さんのテクニックととしてイエスセットというのがある。
商談の時に「Yes」と答えてもらえる話を何回か振りましょうってやつのはず。
(営業さんじゃないので、やってみたことはないけど)
イエスセットもたぶん考え方は同じで、同じ価値観を共有しているということを
相手に示して、人柄を信頼してもらいましょうって感じ。
上記のような感じで、アメリカ大統領とか日常生活とかの事例をたっぷり混じえながら、
ハインリックスさんが実務経験で試してきたテクニックを紹介する本。
この本はコミュ力上げたい人とかにはおすすめできる。
論文とかは紹介してくれないので、このトピックに関して
科学的な知見が欲しい人にはあまりマッチしないかも。
あと、アリストテレスとかの参照箇所を示してくれるわけではないので、
そこらへん示してくれないとイライラする人はだめかも。