ミシェル・ウェルベック『闘争領域の拡大』を読みました
ウェルベックの最初の小説を読みました。
ストーリーは以下のような感じ。
- 主人公はSIerに勤めていて、農務省にリリースした新システムについて、ユーザー向けの研修を行うことになる
- ルーアンやラ・ロッシュ=シュル=ヨンなどのフランス各地に出張へ行く
- ティスランという同僚が同行することになる
- ティスランは醜い青年で、恋人を探すことに必死だが、報われない
小説のテーマは、セックスとかモテとか孤独とかだろう。モテない私としてもなかなか読んでいてつらかった。とくに、ルーアンで主人公とティスランがカフェに一杯やりに行くシーンが悲しい。
僕 は 思いきり 促す よう な 目 で ティスラン を 見る。 カフェ には 若い 男女 が ひしめきあっ て いる。 女 たち が 優雅 な 手つき で 髪 を 後ろ に かきあげる。 彼女 たち は 脚 を 組み、 笑い 出す チャンス を 待っ て いる。 要するに 彼女 たち は 楽しん で いる。 ナンパ する なら 今 だ。 今、 まさに この 時 だ。 この 場所 には すばらしく お膳立て が そろっ て いる。
彼 は 手元 の グラス から 目 を 上げ、 メガネ の 向こう から 僕 を じっと 見る。 そして 僕 は 気がつく。 彼 には もう 気力 が ない。 無理 だ。 彼 には もう 挑戦 する 勇気 が ない。 もう 完全 に うんざり し て いる。 彼 は 僕 を 見つめる。 表情 が 少し 震え て いる。 おそらくは アルコール の せい だろ う。 食事 中 に ワイン を 飲み すぎ た の だ。 馬鹿 な 男 だ。 僕 は 彼 が 泣き 出す のでは ない か、 これ までの 辛い 人生 を 語り だす のでは ない かと 不安 に なる。 彼 は 今にも その 類 い の こと を 始め そう だ。
ミシェル・ウエルベック. 闘争領域の拡大 (河出文庫) (Kindle の位置No.763-771). 河出書房新社. Kindle 版.
『闘争領域の拡大』というタイトルもセックスについての闘争を意味している。自由恋愛が導入されることによって、セックスや愛についても競争が生じることになる。その結果、自由経済と同様に、セックスに富める者と貧しい者に二極化することになる。
(自由経済の見解について、妥当性はよくわかりません)
これについては小説の中に明確に書いてあるので、わかりやすくていいですね。引用しておきます。
完全 に 自由 な 経済 システム に なる と、 何 割 かの 人間 は 大きな 富 を 蓄積 し、 何 割 かの 人間 は 失業 と 貧困 から 抜け出せ ない。 完全 に 自由 な セックス システム に なる と、 何 割 かの 人間 は 変化 に 富ん だ 刺激 的 な 性生活 を 送り、 何 割 かの 人間 は マスターベーション と 孤独 だけの 毎日 を 送る。 経済 の 自由化 とは、 すなわち 闘争 領域 が 拡大 する こと で ある。 それ は あらゆる 世代、 あらゆる 社会 階層 へと 拡大 し て いく。 同様 に、 セックス の 自由化 とは、 すなわち その 闘争 領域 が 拡大 する こと で ある。 それ は あらゆる 世代、 あらゆる 社会 階層 へと 拡大 し て いく。
ミシェル・ウエルベック. 闘争領域の拡大 (河出文庫) (Kindle の位置No.1241-1246). 河出書房新社. Kindle 版.
ラ・ロッシュ=シュル=ヨンで、主人公はある計画を試みるのだが、それについてはぜひ小説を読んでみてください。
ちなみに、ラ・ロッシュ=シュル=ヨンって、地名を聞いたことなかったけど、ナントとボルドーのあいだくらいみたいですね。ざっくり西の方。
原著は1994年に出版された本で、26年も前なので、いろいろと時代を感じます。通貨がフランだし。新しいシステムもパスカル(というプログラミング言語)で実装されているみたいです。(よくわからないんですが、昔はパスカルでシステム開発もよくあったんですかね?)